「人の言うことを聞くべからず」+

坂本晶と申します。はてなでは「坂本晶の『人の言うことを聞くべからず』」をやっています。こちらはサブブログとして、古代史、神話を中心に扱っていきます。『水瓶座の女』という小説を、太陽出版から販売しております。読んで頂けたら嬉しいです。

ヤマトタケルは開化天皇である(86)~伊邪那岐命の後ろから来る者の正体

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前回の前の部分、伊邪那岐命が逃げるところを見ていこう。

ここに伊邪那岐命見畏みて逃げ還ります時、その妹伊邪那美命、「吾に辱(はぢ)見せつ」と言ひて、即ち黄泉醜女を遣はして追はしめきここに伊邪那岐命、黒御縵(くろみかづら)を取りて投げ棄つれば、すなはち蒲子(えびかづらのみ)生りき。こを摭(ひろ)ひ食む間に逃げ行く。なほ追ひしかばまたその右の御みづらに刺せる湯津津間櫛を引き闕きて投げ棄つれば、すなはち笋(たかむな)生りき。こを抜き食む間に逃げ行きき。
また後にはその八の雷神に千五百の黄泉軍を副へて追はしめき。ここに佩かせる十拳剣を抜きて、後手に振きつつ逃げ来るを、なほ追ひて、黄泉比良坂の坂本に到りし時、その坂本なる桃子三箇を取りて待ち撃ちしかば、悉(ことごと)に逃げ返りき。ここに伊邪那岐命、その桃子に告りたまはく、「汝、吾を助けしが如く、葦原中国にあらゆる現(うつ)しき青人草の苦しき瀬に落ちて患(うれ)ひ惚(なや)む時に助くべし」と告りたまひて、名を賜ひて意富加牟豆美命と号(い)ひき。

 

「見畏みて逃げ還ります時」は「見畏而逃還之時」で恐れても逃げてもいない。
「その妹伊邪那美命、『吾に辱見せつ』と言ひて」は、
前回

ヤマトタケルは開化天皇である(85)~黄泉国で伊邪那岐命は片想いする。 - 「人の言うことを聞くべからず」+

で見たように「其妹」伊邪那岐命は見られていないのだから「云っていない」のは当然である。
黄泉醜女」は「予母都志許売此六字以音」である。「黒御縵」は蔓草などを輪にして頭髪にまとって呪物としたものである。「すなはち蒲子生りき」は「乃生蒲子」、「すなはち笋生りき」も同じく「乃生笋」である。「こを摭ひ食む間に」「こを抜き食む間に」もそれぞれ「是摭食之間」「是抜食之間」だが、この二文はどちらも主語は伊邪那岐命である。伊邪那岐命の所有物から「蒲子」も「笋」も生まれなければ、伊邪那岐命がそれを食べることもない。
そして「その右の御みづらに刺せる湯津津間櫛」は「其右御美豆良之湯津津間櫛」で二重否定である。「湯津津間櫛」は左にあってはいけないらしい。
「また後にはその八の雷神に千五百の黄泉軍を副へて」は「且後者、於其八雷神、副千五百之黄泉軍」である。伊邪那岐命の後ろから来る者には雷神の属性が無く、また「千五百」ではない。
「後手に振きつつ」は「於後手布伎都都此四字以音」で伊邪那伎命でないから当然といえるが、これは伊邪那岐命だろうか?むしろ伊邪那岐命の後ろから来る者のことを指すとも読める。
「黄泉比良坂の坂本に到りし時」は「到黄泉比良此二字以音坂之坂本時」「黄泉」と「坂」が否定され、「比良」が二重否定となる。
「その坂本なる桃子三箇を取りて」は「取其坂本桃子三箇」で「桃子」は「坂本」でないところにある。そして伊邪那岐命は「その桃子」に「意富加牟豆美命」と名付けるが、「名を賜ひて意富加牟豆美命と号ひき」は「賜名号意富加牟豆美命一自レ至美以音」とあり、「意富加牟豆美」は「御名」である。しかし「御名」を与えられたのは「其桃子」であり「桃子」ではない。
いや、二重否定と見るならば「桃」に「御名」を与えたことになり、伊邪那岐命は「桃」と関係がある。

前回「其妹」伊邪那美命が「あなたの夫」と呼び掛けたのは伊邪那岐命でなく、伊邪那岐命の後ろから来た者である。
この「後ろから来た者」は雷神の属性が無く、「千五百」でない。しかし「現しき青人草(宇都志伎
此四字以音青人草之)」と云ったように、「伎」でないという共通項がある。これが前回述べた「仕掛け」である。
「ここに伊邪那岐命詔りたまひしく」とあるが、「詔」という字には常に「云」「言」「謂」などの「いう」を意味する動詞がついている。つまり「詔」という字だけでは動詞として意味をなさないと考えることができる。だから「愛しき我が妹の命」と「詔」しても「云った」ことにならない。
つまり伊邪那岐命にとっては、黄泉国は無縁の場所である。だから出ていくのも自由であり、故に閉じ込められなかったのである。
ならば「後ろから来た者」はだれだろうか?
私はこれも「イザナギ」だと考えている。「あなたの夫」と「其桃」伊邪那美命に云われても、本来の関係は伊邪那岐命より近い人物である。しかし少なくとも『古事記』では、この人物に名前はない。

次回、伊邪那「伎」命が日向の橘の小門の阿波岐原で禊をする場面を見ていこう。

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