「人の言うことを聞くべからず」+

坂本晶と申します。はてなでは「坂本晶の『人の言うことを聞くべからず』」をやっています。こちらはサブブログとして、古代史、神話を中心に扱っていきます。『水瓶座の女』という小説を、太陽出版から販売しております。読んで頂けたら嬉しいです。

ヤマトタケルは開化天皇である(57)~「子」は親子関係の否定

古事記開化天皇の条に登場する、開化天皇の子の日子坐王が春日の健国勝戸売の娘、沙本之大闇見戸売を娶って沙本毘古王、袁耶本王、沙本毘売命、室毘古王が生まれる。
うち袁耶本王は、「葛野之別、近淡海蚊野之別之祖なり」とあり、「之」と「別」で二重否定となり、袁耶本王は出雲系となると考えれば、「袁」が丹波系を表すと考えて、「耶」がまた否定の意味だから出雲系になると考えることができる。
ということで、前回の最後の答えは「耶」は否定の意味になり、次の疑問として、伊耶本和気命と伊耶本和気王は何が違うのかに入るのだが、ここで大変なことに気づいてしまった。


子、伊耶本和気王、伊波礼の若桜宮に坐して天の下治らしめしき。

という記述を不自然に思った読者も多いだろう。伊耶本和気命と伊耶本和気王が違うのも想像できたと人も多いと思う。
その理由が、「子、伊耶本和気王」にかかっている。
実は、「子」は親子関係の否定である。
正しく親子関係だと表現する場合、『古事記』では「御子」と記述する。
「子」だけではない。「兄」、「弟」、「父」という記述も、血縁関係を意味しない。神代の神々の系譜は、ほとんど造作されている。
天皇の場合、子女には「御子」を用いるが、その他の皇族には「子」が用いられ、造作された系譜だとわかる。
それではほとんどの系譜が嘘ではないかと思うだろうが、信頼できるものもある。なぜなら豪族の場合、大抵「~之祖」という記述で二重否定になっているので、その人物が氏族の祖先なのは確かなのである。
親を指す場合、『古事記』では「御祖」を用いる。 ついでにいえば、「日子」は「日」の否定で、丹波系である。

ヤマトタケルは開化天皇である(51)~「之」も否定、「イリ王朝」は出雲系 - 「人の言うことを聞くべからず」+


で述べた、「入日子」を「日子」と同じとする見解をここで訂正し、「入」が「日子」の否定であるとする。
しかし「日子」は丹波系だが、「日売」は出雲系である。「日子」に対応する丹波系の表記は「日女」である。

もし今までに「原文を紹介する」と書いているところがあれば訂正しなければならないが、『記紀』の原文は漢文で、今までに紹介したのは読み下し文である。和歌はいわゆる万葉仮名で書かれており、漢文の中に一部、万葉仮名が混じっている。
講談社学術文庫の『古事記』には原文がないので、今回、改めて岩波文庫の『古事記』を購入した。

岩波の『古事記』には、現代語訳がない。
それでも古文に自信がある人は講談社より岩波の法がいいと思うかもしれないが、岩波『古事記』は古典文学体系『古事記』に拠って校訂されており、例えば

ヤマトタケルは開化天皇である(41)~「佐耶岐」と大雀太子 - 「人の言うことを聞くべからず」+


の「守」遅野和紀郎子も直されており、また「耶」は伊邪那岐命の「邪」になっている。
だから研究したい方には、講談社、岩波の両方読むのをお勧めする。
以降、必要最小限の原文も紹介し、その際漢文は講談社の『古事記』を基に校訂する。しかし返り点は80%縮小しかないので、不都合があればコメントを頂きたい。

長々と述べたが、まだ例証していないので、ここで例を挙げよう。少名毘古那の登場する場面である。
大国主神をはじめ、誰も少名毘古那が誰かわからない。そこでくえびこが神産巣日神の「御子」の少名毘古那神だと指摘する。


ここにたにぐく白さく、「こはくえびこ必ず知りたらむ」とまをせば、即ちくえびこを召して問ひたまふ時、こは神産巣日神の御子、少名毘古那神ぞと答白しき。 かれここに、神産巣日の御祖命に白し上げたまへば、答へて告りたまはく、「こは実に我が子なり。子の中に我が手俣よりくきし子なり。かれ、汝、葦原色許男命と兄弟となりて、その国を作り堅めよ」とのりたまひき。

「こは神産巣日神の御子、少名毘古那神ぞと答白しき」は「答 白此者神産巣日神之御子、少名毘古那神 」、「かれここに、神産巣日の御祖命に白し上げたまへば、答へて告りたまはく、『こは実に我が子なり』」は「故爾白二  於神産巣日御祖命 者、答告、此者実我子也」となっている。これで神産巣日神と神産巣日御祖命が同一で、少名毘古那神が神産巣日神の「御子」でないことがわかる。
この物語は大国主神と少名毘古那神を兄弟にして、大国主神神産巣日神の「子」にするためのものと現時点で解釈している。

「子、伊耶本和気王」は、仁徳の「御子」の否定である。その意味を探るために、次回、神功皇后のエピソードを語ろう。

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