「人の言うことを聞くべからず」+

坂本晶と申します。はてなでは「坂本晶の『人の言うことを聞くべからず』」をやっています。こちらはサブブログとして、古代史、神話を中心に扱っていきます。『水瓶座の女』という小説を、太陽出版から販売しております。読んで頂けたら嬉しいです。

ヤマトタケルは開化天皇である(33)~磐之姫の正体

シリーズ第一回目から読みたい方はコチラ↓

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仁徳天皇の皇后石之比売は、仁徳が八田若郎女を娶りたいと言われて怒り、山城の屋敷に籠ってしまう。
この話は『記紀』双方にあるが、それぞれの結論が違う。『古事記』では石之比売が仁徳に説得されて戻るが、『書紀』では磐之姫は説得に応じずに死に、矢田皇女が皇后になる。
古事記』を見てみよう。
石之比売が山城の屋敷に籠ると、仁徳は口子臣を遣わして石之比売を説得させる。
口子臣は庭に平伏し石之比売に語りかけようとするが、石之比売は行き違って反対の方に行ってしまう。口子臣が反対の方へ行くと、石之比売は元の所に戻っている。庭に溜まった雨水が口子臣の衣服を濡らす。
口子臣の妹の口日売は、石之比売に仕えていた。口日売は見かねて、

山代の 筒木の宮に 物申す 我が兄(せ)の君は 涙ぐましも

 

と歌を歌う。そうしているうちに石之比売の機嫌が治っていく。
口子臣と口日売は、兄妹で名前が共通している。兄弟姉妹の名前の共通は、近親婚の暗示である。
口子臣と口日売の存在により、仁徳と石之比売が近親婚に擬せられる。しかし近親婚を家臣の近親婚と重ね合わせることで表現しなければならないというのは、近親婚があった可能性が低いかもしれない。
近親婚があったのかどうかを判断する鍵は、口日売にある。

有名な海幸山幸神話で、互いに道具を交換した後、山幸彦は海幸彦の釣り針を無くしてしまう。
山幸彦は海神の宮殿に探しに行き、鯛の喉に引っ掛かっていた釣り針を見つける。

この話が、『書紀』の異伝第二では鯔(いな)となっている。鯔とはボラのことである。

また別伝に、「鯔に口の病があるということです」というものがあり、急いで呼んで口を探ると、紛失した釣針が見つかった。そこで海神が禁じていわれるのに、「お前鯔は、これから餌を食べてはならぬ。また天孫にすすめる御膳に加わることはできない」と。

 

とある。さらに異伝第四に、

海神は赤女や口女を呼んで訪ねられた。すると口女は口から針を出した。赤女は赤鯛、口女は鯔である。

 

とある。この口女が口日売である。
なぜ天孫の御膳に加わるのを禁じられた鯔が口日売なのかだが、その理由を書くのは相当先になりそうである。今は仁徳と石之比売の話を進めよう。

『書紀』では、仁徳に遣わされて磐之姫を説得しようとするのは、口子臣ではなく口持臣となっている。妹はいるが、名前は国依媛である。近親婚の暗示がない。
さらに、磐之姫の別居の話の直前に、桑田の玖賀媛の話がある。仁徳は磐之姫の嫉妬を恐れて玖賀媛を後宮に入れることができないので、玖賀媛の面倒を見る男を求めると、速待という者が願い出た。しかし玖賀媛は速待と打ち解けず、しばらくして玖賀媛は死んでしまう。
磐之姫の別居の話と、玖賀媛の話は良く似ている。
実はこれは『書紀』が、異伝の並列により、『古事記』のストーリーを解体する形式の変型なのである。だから名前が違っても人物は同じで、玖賀媛、国依媛は磐之姫、速待、口持臣は仁徳である。しかも磐之姫の別居で歌う中に、


つぬさはふ 磐之媛が おほろかに 聞こさぬ うら桑の木 寄るましき 川の隈々 よろほゆくかも うら桑の木

 

という仁徳の歌があり、磐之「媛」と言っている。「媛」表記は丹波系を表すので、口持臣と国依媛は近親婚の否定、速待と玖賀媛は婚姻の否定で、否定されたのは出雲系である。よってこの部分が前回の話の、仁徳=平群木菟である。以降、仁徳は大鷦鷯、丹波の君主として描かれる。
それでは丹波の君主としての仁徳がどのように描かれているのか、残ったいた鹿の話と絡めて、次回見ていこう。


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