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「人の言うことを聞くべからず」+

坂本晶と申します。はてなでは「坂本晶の『人の言うことを聞くべからず』」をやっています。こちらはサブブログとして、古代史、神話を中心に扱っていきます。『水瓶座の女』という小説を、太陽出版から販売しております。読んで頂けたら嬉しいです。

ヤマトタケルは開化天皇である(29)~アメノヒボコとツヌガアラシト

シリーズ第一回目から読みたい方はコチラ↓

sakamotoakiraf.hateblo.jp

アメノヒボコとツヌガアラシトの神話は、非常によく似た神話と認識されている。しかしその細部を見ると、二人は別人であることがわかる。
まずアメノヒボコの神話から見てみよう。


新羅国に一つの沼あり。名を阿具奴摩といふ。この沼の辺(ほとり)に一(ひとり)の賎しき女昼寝したりき。ここに日の輝き虹の如くその陰上(ほと)を指しき。また一の賎しき夫(おとこ)ありて、その状を異(あや)しと思ひて、恒にその女人の行(わざ)を伺ひき。かれ、この女人、その昼寝せし時より妊身(はら)みて、赤玉を生みき。ここにその伺ひし賎しき夫、その玉を乞ひ取りて、恒に嚢(つつ)みて腰に著けたりき。

 

赤玉を生んだのは「賎しき女」であり、その赤玉をもらい受けた「賎しき夫」はその赤玉を腰につけている。つまり「賎しき女」と「賎しき夫」は夫婦であり、赤玉は二人の子である。。
この「賎しき夫」は山谷の中に田を作り、耕作者達に飲食物を持っていくために、牛に飲食物を負わせて運ぶ最中に新羅の王子、アメノヒボコに会う。
「汝(なれ)必ずこの牛を殺して食ふならむ」
アメノヒボコは言い、獄囚に入れようとする。「賎しき夫」が弁解しても聞かない。そこで腰の赤玉をアメノヒボコに献上すると、アメノヒボコは男を赦した。
やがて赤玉がひとりの嬢子(をとめ)となり、その嬢子をアメノヒボコが妻としたが、
「凡そ吾は、汝の妻となるべき女にあらず。吾が祖の国に行かむ」
と言って逃げ出し、アメノヒボコは追いかけるが捕まえられず、最終的に但馬国に定着する。
アメノヒボコは、なぜ「賎しき夫」に「牛を殺して食うつもりだろう」と言ったのだろう?この点を念頭に置いて、
『書紀』を見てみよう。
ツヌガアラシトが大加羅国にいたときに、黄牛に農具を負わせて田舎に行った。ところがその牛がいなくなり、跡を追っていくと、足跡がある邑の中で途絶えていた。ツヌガアラシトにひとりの老人が、
「村役人が『牛の負っていたものから考えると、きっと殺して食おうとしているのだろう。もしその主がやってきたら、物で償いをしよう』と言って殺して食べてしまった」
と言い、ツヌガアラシトは邑で、牛の替わりにその邑の神の白い石をもらい、その石が娘になる。
ツヌガアラシトは娘と交合しようとしたが、隙を見て娘は逃げ出し、ツヌガアラシトが妻にどの方向に逃げたか尋ねると、「東の方へ」と答え、ツヌガアラシトはその後を追って日本に入った。

ツヌガアラシトが牛を連れている姿は、『古事記』の「賎しき夫」と似ており、ツヌガアラシトが『古事記』の「賎しき夫」であることがわかる。『古事記』では、「賎しき夫」は牛を食べないと弁解するが、『書紀』のツヌガアラシトの様子から見て、牛を食べるつもりだったことも、『記紀」を比較することで見えてくる。
アメノヒボコは「賎しき夫」に難癖をつけることで、牛を救う。牛を救う理由は、アメノヒボコが前回の

ヤマトタケルは開化天皇である(28)~髪長姫の正体 - 「人の言うことを聞くべからず」+

に登場した諸県君牛だからである。そして赤玉と白い石は、それぞれの娘である。アメノヒボコと白い石は丹波系で、ツヌガアラシトと赤玉が出雲系である。
なお、それぞれの娘は日本に逃げて比売碁曾神社の祭神である阿加流比売になっている。比売碁曾神社は大阪市東成区にあった(現在はない)神社だが、『書紀』の方は


また豊国の国前郡に行って、比売語曽社の神となった。

 

 

と、娘の行き先がふたつになっている。「また」の部分が、書紀の主張である。
興味深いのは、「古事記』の赤玉の娘がアメノヒボコの妻になっているのに対し、『書紀』の白い石の娘はツヌガアラシトの妻になっていないことである。ツヌガアラシトの妻が登場するのも、白い石の娘と結ばれていない点を強調するためである。
記紀』のそれぞれの主張が歴史的事実かどうかは判然としないが、確実なのは、それぞれの主張にそれぞれの願望が籠められていることである。神話は、律儀に歴史的事実を記す必要はない。だから願望がなければ主張にならない。つまり出雲勢力は丹波系の血が入るのを望み、丹波勢力は出雲の血が入るのを拒否している。丹波系が上位にあることを示す傍証である。
次回は、応神天皇を見ていこう。


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