「人の言うことを聞くべからず」+

坂本晶と申します。はてなでは「坂本晶の『人の言うことを聞くべからず』」をやっています。こちらはサブブログとして、古代史、神話を中心に扱っていきます。『水瓶座の女』という小説を、太陽出版から販売しております。読んで頂けたら嬉しいです。

ヤマトタケルは開化天皇である(28)~髪長姫の正体

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髪長姫は以外なところにいる。
因幡国国造の伊福部氏の系図は、スサノオ大国主の子孫がニギハヤヒという、『記紀』とは大きく異なる資料であるが、この『伊福部氏系図』の中に、髪長姫がいる。

伊福部氏系図|天璽瑞宝

髪長姫はニギハヤヒの孫、彦湯支命の配偶者となっている。そして髪長姫には「出雲臣の祖」とある。
出雲臣とはスサノオの子孫としてのそれか、アマテラスの子で、アメノオシホミミの弟、アメノホヒの子孫なのか、判然としない。しかしここでは、髪長姫は出雲系の中にいる人物だと解釈するべきだろう。『記紀』では仁徳天皇の妃となっている髪長姫が『伊福部氏系図』にいるのは、仁徳朝が出雲系であることを表している。
なおこの系図は当然ながら、ニギハヤヒ以降は『先代旧事本紀』の物部氏の系図と重なっているが、こちらには髪長姫はいない。ただ『伊福部氏系図』では、髪長姫の子が出雲色雄命となっているので、『先代旧事本紀』の出雲醜大臣命の母、出雲の色多利姫が髪長姫なのだろう。

古事記』では、髪長姫は日向国の諸県君の娘で、応神天皇に召されて上京する。難波津で皇子の仁徳天皇が髪長姫を見て、健内宿禰大臣に自分に髪長姫を賜るように頼み、健内宿禰の仲介で、仁徳は応神から髪長姫を賜る。
『書紀』では少し違う。髪長姫の父は諸県の君牛諸井となっていて、『古事記』と違い名前がある。
応神は髪長姫を召して、摂津国桑津邑に置く。ここが意味深で、『古事記』では「使ひたまはむとして」髪長姫を召したとあり、妃とするために召したとは書いていない。
髪長姫が使用人なら、応神は自分のそばに置くだろう。桑津邑に置いたのは、そこに宮があり、髪長姫を妃として置いた暗示である。
次に、『書紀』には健内宿禰は登場しない。応神が、仁徳が髪長姫を気に入ったと見て、仁徳に娶せる。
この時に応神が歌う歌が異様である。

いざ我君(あぎ) 野蒜摘みに 蒜摘みに…

 

と、応神は歌う。仁徳は応神の子である。その仁徳に、応神は「我君」と語りかけるのである。
その後仁徳も歌うが、


大鷦鷯尊は髪長姫とすでに同衾され、仲睦まじかった。

 

とある。これを髪長姫を賜った後すぐに同衾したと解すれば意味は通じるが、不自然である。仁徳は髪長姫を賜る前に、髪長姫と通じたと解すべきだろう。

このようにして、『書紀』は『古事記』にストーリーを合わせたように見せて、違うストーリーを呈示する。
この後、異説が紹介される。


ある説によると、日向の諸県君牛は、朝廷に使えて老齢となり、仕えをやめて、本国に帰った。そして女の髪長媛を奉った。播磨国まできた。天皇は淡路島にきて狩りをなさった。そして西の方を御覧になると、数十の大鹿が海に浮いてやってきて、播磨の加古の港に入った。天皇はそばの者に、「あれはどういう鹿だろう。大海に浮かんで沢山やってくるが」といわれた。お側の者も怪しんで、使いをやって見させた。見るとみな人である。ただ角のついた鹿の皮を、着物としていたのである。「何者か」というと答えて「諸県君牛です。年老いて宮仕えができなくなりましたが、朝廷を忘れることができず、それで私の娘の髪長媛を奉ります」と。天皇は喜んで娘を宮仕えさせられた。

 

とある。「ある説によると」は、「書紀』の本音である。ここでくみ取るべきは、「髪長媛は応神のもの」
である。
日向国諸県郡は、『魏志倭人伝』の狗奴国の位置に当たる。『古事記』に合わせた部分は、仁徳が応神を介して、狗奴国の姫をもらう話で、一事応神の妃となっているのは、元々髪長姫が、応神の配偶者である暗示である。応神の配偶者をもらう話にしたくないので、「髪長媛とすでに同衾され」と主張しているのである。
ならば「諸県の君牛諸井」と、「諸県君牛」は別人であり、それぞれの髪長媛も別人である。『書紀』の本当の主張が「ある説によると」の部分にあると考えれば、「諸県君牛」とは丹波系の人物であり、その娘の髪長媛が

ヤマトタケルは開化天皇である(27)~稲田宮主とクシナダ姫の深層 - 「人の言うことを聞くべからず」+

の真髪触奇稲田媛だと考えられる。
しかしこれではまだ根拠が弱い。もう少し論を固めることができないかと言えば、その鍵はある。
鍵は動物である。鹿ではない。鹿は囮で、その正体は牛である。
そして「諸県君牛」が誰か分かれば、応神、仁徳もある程度目星がつく。次回以降、「牛」「応神」「仁徳」そして「鹿」について見ていこう。

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